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vol.199:株式会社桃谷順天館(2)〜ライフサイエンス×テクノロジーで実現。未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」〜

 今回お話しいただくのは、桃谷順天館 桃谷総合文化研究所 所長の杉野様です。

まずは、桃谷総合文化研究所について教えてください。

【桃谷総合文化研究所 所長の杉野様】

 桃谷順天館の研究所は1913年に化粧品専門の研究所として開設し、日本最古の歴史を誇ります。開設当時から現在まで、にきびや、肌の菌についての研究を引き継いでいます。桃谷順天館には、化粧品の中身をつくったり、機能性を研究したりする中央研究所のほかに、製造技術研究所と、桃谷総合文化研究所があります。製造技術研究所は、岡山工場内にあり、品質の管理等、安心・安全な商品提供のための研究を行っています。
 私が所属する桃谷総合文化研究所は、通常なかなかしないことをする特徴的なラボです。桃谷順天館は長い歴史がある故に、新しいことにチャレンジする際のプロセスに時間がかかり、スタートアップ企業等との連携に取り組みにくいという課題がありました。一方で、会社としても新しいことにチャレンジをして発展していく必要性を感じ、社長直轄部署として「桃谷総合文化研究所」が設置されました。現在、桃谷総合文化研究所の主な活動としては、2つございます。『1つ目が化粧品の枠を広げる活動』、2つ目が『ライフサイエンスとテクノロジーを掛け合わせて新しいことをする活動』です。

桃谷総合文化研究所の主な活動の1つ、『化粧品の枠を広げる活動』について教えてください。

 化粧品は、使い続けることで綺麗になりますが、桃谷総合文化研究所では、布の繊維に化粧品効果があるものを練り込んだり、プロテインなど身体の内側に入るものに化粧品的機能や効果をつけたりして『化粧品の枠を広げる活動』を担当しています。

【着るだけで スキンケア効果をもたらしてくれる
「モイストファイバー」】

 例えば、着るだけでスキンケア効果をもたらしてくれる「モイストファイバー」です。 実は、よく知られている乳酸菌のように、肌にも美肌菌(=善玉菌)というものがあり、肌をきれいに保つためには、肌にいる菌をすべて殺菌してしまうのは良くありません。そこで、桃谷順天館では、美肌のために菌を全て殺菌するのではなく、肌の悪玉菌に優先的に作用し、美肌菌の割合を増やすフローラコントローラ「FC161」の研究開発に成功しました。私たち、「桃谷総合文化研究所」では、そのフローラコントローラ「FC161」を化粧品だけではなく、繊維に配合する研究を行い、「モイストファイバー」を世界で初めて開発することに成功しました。通常だと乾燥した時にボディークリームを塗ると思いますが、この「モイストファイバー」を素材とした衣服ですと、着ているだけでスキンケア効果があります。
 また、腸内細菌の研究にも取り組んでいます。身体の中からきれいになってもらえるようなサプリメントやコーヒー、プロテインを色々な企業様と協力しながら作っています。

桃谷総合文化研究所の主な活動の1つ、『ライフサイエンスとテクノロジーを掛け合わせて新しいことをする活動』の一部として、大阪・関西万博に出展されたのでしょうか。

 新しいことに挑戦する中で、大阪・関西万博の開催が決まり、是非、大阪・関西万博に参加したいと社内で話題に上がりました。その後、無事に企画が採択され、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」の展示・出展ゾーン「リボーンチャレンジ」エリアに出展が決まりました。6月10日〜16日には、大阪大学や神戸大学と共同で研究開発を行ってきた『未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」』を出展しました。また、9月23日〜29日には、先ほどの着るだけでスキンケア効果のあるモイストファイバーを活用した展示や、香りを使った展示を行う予定です。

『未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」』ついて教えていただけますでしょうか。

【未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」】

 「SKIN VOICE」は、肌分析をするセンサーを搭載したメガネデバイスと、肌分析結果に合わせて化粧水を噴出するシューターデバイスを合わせたシステムです。 大阪・関西万博に展示したものは、SKIN VOICEを2分程度装着すると肌測定が完了し、AIナビゲーターがシステムの説明と肌タイプ・肌水分量・バリア機能・肌年齢といった測定結果を解説してくれます。その後、測定結果に合わせて超微粒子化された化粧水が噴射されるといった流れになっています。
 スタートアップ企業に協力いただいたシューターデバイスは、6種類の化粧品を充填でき、強度が7段階ありますので、種類と強度の組み合わせで色々なパターンでの噴射が可能となっています。また、今回シューターの中に入れた化粧水については、コラーゲンに注目して心不全などの研究を行っている大阪大学大学院医学系研究科のM田吉之輔特任教授と共同研究から生まれた、未来のスキンケア素材「C3ペプチド」を使用しております。この素材は美容分野では弊社が専属で使用させていただくものです。
 測定結果を出す仕組みとしては、神戸大学大学院工学研究科 寺田努教授と共同研究し、メガネ型デバイスで肌を測定した情報と、弊社で測定してきたあらゆる年代の方にご協力いただいたたくさんの肌測定データを組み合わせて算出しています。

【筆者が大阪・関西万博で体験した際の測定結果】

 また、診断結果の肌タイプについては今回6つのタイプをご用意しました。肌タイプの基本である脂性肌・普通肌・混合肌・乾燥肌に加え、敏感肌と理想肌の6つです。理想肌は万博ならではのエンタメ性を考慮して導入したもので、肌水分量・バリア機能共に85点以上の人のみが理想肌になります。私が会場にいた期間ではお一人だけ理想肌の方がいらっしゃいました。
 本プロジェクトの全体的なディレクションは私が担当し、世界観なども重要と考え、クリエイティブにも力を入れました。未来感や先進感を出せるようこだわり、クリエイティブチームにAIキャラクターのMOMOを作ってもらいました。
 今回の大阪・関西万博では体験時間が限られてしまうので、現状のお肌の状態を測定し、今の状態に適したものを体験いただく企画にしましたが、私たちが描く未来像としては常時身に着けることで肌トラブルが無くなるための機器として研究開発をしています。

大阪・関西万博に展示した『未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」』開発秘話はございますか。

 化粧品の効果の感じ方はそれぞれの主観に因るところが大きく、メーカー側が効果を設計しても、広告や口コミの影響が強く、メーカー側の意図したことが伝わらないという課題があり、化粧品の効果をよりお客様に伝わる目線で数値化したいという研究テーマから開発がスタートしました。画像解析で肌を分析し数値化する研究はいくつかありますが、角度や光の当たり方等によってデータが変わってしまうという課題もあります。そこで、私たちは肌の状態をセンシングし、肌を分析することを約8年前から神戸大学と共同で研究を始めました。肌は紫外線などの外的要因やストレスなどの内的要因で日内変動することが知られています。本来、ダメージを受けた直後にスキンケアをすることが理想ですが、少しのダメージでは自覚症状はなく、忙しい日常生活の中で細やかにスキンケアをすることは難しく、朝と夜の2回が一般的です。そんな中で、いつ、どれだけダメージを受けたかをセンサーが記録、および数値化しながら肌を常時観察し、自覚症状がない肌トラブルの早期発見が可能になるのではないかと考えていました。
 また、センサーが測定した肌情報をから、どのような成分がどのくらい必要かを計算し、自動で化粧水などを出す仕組みによって、未来の肌トラブルを減らせるのではないかと思い研究開発を進めております。
 今回は、大阪・関西万博で体験してもらう際に違和感が出ないように着用いただけるメガネ型デバイスを採用しましたが、実際にはいろいろな検討をしております。例えば肌のかゆみやアトピー性皮膚炎がある方向けにという切り口から衣服につけるセンサーも研究しております。
 大阪・関西万博では1400名の方にご体験いただき、様々なご意見やご感想を含むデータが蓄積されたのでこちらも活用していきたいです。また今後は、肌からわかるデータを広く解析し、美容目的だけではなく健康分野への展開を目指した研究開発を進めていきたいと考えています。

大阪・関西万博に展示した『未来型スキンケアシステム「SKIN VOICE」』来場者からの反応はいかがでしたか。

 私も会場に行きましたが、開館時間中は行列が絶えないほどの大盛況でした。実際に会場でお客様の声を聞いていると「自分の肌に合ったものを診断するサービスはあるけど、自分でアンケートに答えて出た結果だから本当かなって疑っちゃう。でもこのSKIN VOICEは実際に測定しているからいいね」というご意見もありました。体験後にご協力いただいたアンケートをみても、「こういう未来が来て欲しい」という評価も高く、今後の開発の励みにもなりました。
 興味を持っていただいたもののご体験いただけなかった来場者も多くいらっしゃって、「どこに行ったらSKIN VOICEが体験できるのか」という質問もたくさんいただきました。このお声に応えるために、弊社の大阪本社での体験イベントを現在検討中ですので、ぜひお楽しみにお待ちください。

桃谷総合文化研究所の今後のライフサイエンスとテクノロジー分野での展望について教えてください。

 化粧品の技術は日々進化していて、肌に様々な作用を期待できる素材が増えてきております。一方で、効果と安全性はトレードオフの関係性にあり、かつ化粧品は安全であるべきであり安全性を重視したバランスを避けることは出来ません。医学界では、このバランスをいかに取るかが治療戦略の中心にあり、AIによる診断やバイオセンサーを用いた多くの進化がなされてきました。こういった技術やデータは美容業界にも影響を与えてくると思っています。
 一人一人に合わせた美容を提供するとなれば、肌をどう測定するのか、というテクノロジーの観点に加えて、楽しさが大切になってくると思います。ただ測定されるだけだと健康診断のようで楽しくなく、継続するのは困難になります。楽しく測定するためにもテクノロジーは必要不可欠になると考えており、「技術の部分はしっかりしていて、体験していて楽しい」そんな仕掛けを今後も生み出していきたいです。

9月23日〜29日には、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」にて、モイストファイバーの展示や、香りを使った展示を出展予定ですので、ぜひ足を運んでみてください!

【9月23日〜29日に、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」に展示予定、試作段階の「光合成する服」

次回は、明色化粧品の商品開発について、マーケティング部の永井様にお話をお伺いしていきます!

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